第4章

自衛隊の現状と主な動き

 自衛隊は,30万人を超える隊員(自衛官,事務官等のほかに,防衛大学校及び防衛医科大学校の学生,予備自衛官等を含む。)を擁し,わが国の防衛を効率的に行うことができるよう部隊や各種の機関が置かれ,長官の統轄の下に運営されている。

 長官が隊務を統轄するに当たっては,内部部局,陸・海・空幕僚監部及び統合幕僚会議がそれぞれの分野で補佐することはすでに述べたとおりである(第3章1)。

 部隊は,所要の装備を備え,訓練を重ね,わが国に対する侵略の未然防止に有効に寄与しうるよう練度の向上に努めているほか,領空侵犯対処や災害派遣などの任務を遂行している。

 また,各種の機関は,部隊の諸活動を維持し,支援するために必要な業務を分担している。

 これらの機関としては,部隊等の活動の基盤となる防衛施設の取得,管理及び建設工事の実施を行う防衛施設庁,技術研究開発を行う技術研究本部,装備の調達を行う調達実施本部,補給・整備を行う補給処並びに毎年3万人近くの隊員の募集を行う地方連絡部がある。このほかに,防衛研修所,防衛大学校,防衛医科大学校その他の学校,病院などがある。

 本章では,陸・海・空自衛隊の現状と最近における自衛隊の動きの主なものについて説明し,自衛隊の実態の理解に資するとともに,その抱えている問題点の一端をあわせて報告する。

1 陸・海・空自衛隊の編成と定員

(1) 陸上自衛隊の編成

 陸上自衛隊は,次のように編成されている。(第21図 陸上自衛隊の編成

ア 主要部隊の編成と役割

(ア) 方面隊は,担当する方面の防衛に当たる部隊であり,基幹となる2〜4個の師団と,これらの師団を支援する特科部隊,高射特科部隊,施設科部隊等から編成されている。
(イ) 師団は,陸上戦闘に必要な各種の機能を備えており,一定の期間独立して戦闘行動を実施することのできる基本的な作戦部隊である。編成人員数9,000のものと7,000のものとの2種類に分けられるが,特に機械化された第7師団がある。師団は,一般的に次のように編成されている。(第22図 師団の編成)

イ 主要な部隊の配置と警備区域

(ア) 陸上自衛隊は,全国を第23図に示すような警備区域に区分し,方面隊を配置している。
(イ) 各方面隊の警備区域は,地域の広狭その他の特性に応じて,2〜4個の警備地区に区分して,それぞれに師団を配置している。
(ウ) 各警備地区には,部隊の運用,維持,管理並びに災害派遣,民生協力等を考慮して各種の部隊等を分散,配置しており,それらの部隊の駐とん地の数は全国で123か所に及んでいる。

(2) 海上自衛隊の編成

 海上自衛隊は,次のように編成されている。(第24図 海上自衛隊の編成

ア 主要部隊の編成と役割

(ア) 自衛艦隊は,機動的運用によってわが国周辺海域において防衛に当たる部隊であり,護衛艦隊,航空集団,2個の掃海隊群及び2個の潜水隊群を基幹として次のように編成されている。(第25図 自衛艦隊の編成
(イ) 地方隊は,自衛艦隊と密接に連携しながら,担当海域の海上防衛に当たるとともに,自衛艦隊を含む部隊等の後方支援を実施するものであり,わが国沿岸海域を第26図のように区分した5つの警備区域に配置されている。その編成は第27図のとおりである。

(3) 航空自衛隊の編成

 航空自衛隊は,次のように編成されている。(第28図 航空自衛隊の編成

 

ア 主要部隊の編成と役割

航空総隊は,わが国の空の防衛の任に当たる部隊であり,3個の航空方面隊と1個の航空混成団を基幹として次のように編成されている。(第29図 航空総隊の編成

 第29図航空総隊の編成

イ 主要な部隊の配置と防衛区域

航空自衛隊は,わが国とその周辺空域を第30図に示すような防衛区域に区分し,航空方面隊又は航空混成団を配置している。

(4) 自衛官の定員及び現員

 陸・海・空自衛官の定員及び現員は次のとおりである。(第15表 自衛官の定員及び現員

 

(注) 特科団 各種の野戦砲(155mm榴弾砲,155mm加農砲,203mm榴弾砲など)を装備し,方面隊,師団等の全般的な地上火力支援に当たる部隊
(注) 掃海隊群 自衛艦隊に属する機雷戦部隊であり,掃海艇,掃海母艦及び敷設艦から成る。港湾や水路に敷設された機雷の除去,処分及び防御機雷の敷設を主たる任務とする。

 

2 第4次防衛力整備5か年計画の推移

(1) 概要

 昭和51年度をもって終る4次防は,著しい諸経費の高騰と政府の総需要抑制政策とによって,「第4次防衛力整備5か年計画の主要項目」に計画された主要装備の整備に遅れを生じ,そのかなりの部分が達成できないこととなった(第16表,資料6−(1)〜(4))。これら未達成になるものについては,その整備を取りやめ,ポスト4次防において改めて検討することとした(資料6−(5))。

 当初,計画に必要な防衛関係経費の総額は,昭和47年度予算価格べースで,概ね4兆6,300億円程度と見込まれていた。これに対し,実際の額(47〜51年度の補正後予算額)は,51年度予算額を含めて,累計5兆9,058億円となっているが,価格変動を除いた実質額では,上記の事実からも明らかなとおり計画見積額を大幅に下回っている。

(2) 主要装備,技術研究開発及び民生協力

ア 主要装備のうち大幅に未達成の生じたものは,自走火砲,護衛艦,潜水艦及び支援戦闘機である。

この結果,主要装備の勢力推移は第17表のとおりと見込まれ,周辺海域防衛能力及び重要地域防空能力の強化並びに各種の機動力の増強に関しては,計画を相当に下回ることとなった。全般に,古い装備の更新近代化が遅れてきている。

イ 技術研究開発については,新たに研究開発に着手したもののうち主なものを挙げると,第18表のとおりである。

また,4次防前に研究開発に着手した装備品等で,昭和47年度から49年度までに完了したもの及び現在継続中のもののうち,主なものは第19表に示すとおりである。

技術研究開発を推進するに当たっては,近距離空対艦誘導弾をはじめ各種誘導弾の研究開発を重視しているが,このことは,この分野で他の先進諸国に大きく遅れをとっているわが国の技術能力の向上,蓄積に寄与するものと考えられる。

ウ 民生協力については,陸上自衛隊の各方面隊施設団に,ドーザー,グレーダー等の施設機器材を増強するとともに,普通科連隊に小型ドーザー等を新たに装備した。

 

(注) 自走火砲 榴弾砲や迫撃砲などの火砲が,専用の車体にとう載されて,自走能力をもつもの。

3 新しい部隊と新しい装備

(1) 陸上自衛隊

ア 新しい部隊

(ア) 第1戦車団

昭和49年8月,独立戦車部隊として第1戦車団を編成し,北恵庭(北海道)に配置した。

この部隊は,北部方面隊の第l戦車群(同時に廃止)を母体とし,これに装甲輸送車を持たせ,普通科部隊と協同して機甲作戦を行う独立機動部隊として運用できるよう改編したものであり,3個の戦車群と1個の装甲輸送隊から成る。

(イ) 第7高射特科群

昭和49年8月,西部方面隊に第7高射特科群を編成し,竹松(長崎県)に配置した。

この部隊は,中・低空域から侵攻する航空機を要撃する地対空誘導弾(ホーク)部隊である。

なお,中部方面隊では,51年8月を目標に第8高射特科群の編成を準備しており,この部隊は,青野原(兵庫県)に配置する予定である。

これにより,ホーク部隊の配置は第31図のようになる。

(ウ) 各方面輸送隊

昭和51年3月までに,各方面隊の輸送大(中)隊の編制を改めて方面輸送隊とした。

この改編は,人員及び物資輸送の効率化を図るため従来の5トントラックを11.5トントラックに大型化し,また,戦車を含む重量物の輸送能力をもつ特大型セミトレーラを新たに装備する等,輸送能力を向上させることに伴うものである。

イ 新しい装備

(ア) 74式戦車

74式戦車は,わが国の国土地形の特性に適し,かつ,諸外国の主力戦車にも十分対抗できる戦車として,昭和39年度から約10か年をかけて開発したものであり,50年度から逐次部隊に配備している。

諸外国は,陸上戦闘における機動打撃力の骨幹として戦車を依然重視しており,自国の主力戦車の火力・機動力並びに装甲防護力を強くすることに大きな努力を払っている。

これまでの自衛隊の主力戦車は,15年前に開発した61式戦車であるが,各国の最近のものに比べるとその性能も必ずしも十分なものとはいえなくなった。

74式戦車は,105ミリ戦車砲をとう載し,他国の戦車に見られない優れた姿勢制御装置(地形の変化に応じて姿勢を変換できる装置)並びに射撃統制装置や砲安定装置があって,複雑な地形の上でも正確な射撃ができ火力・機動力の面でも一流の水準にある。

(イ) 75式155ミリ自走榴弾砲

この自走砲は,野戦特科部隊の主力装備として,昭和44年度から約5か年をかけて開発したもので,51年度からこれを逐次部隊に配備する予定である。

現代の陸上戦闘では,作戦速度がますます高められ,目標は,一層装甲化される傾向にあり,一方わが国土の地形は錯雑をきわめている。このため,火砲威力の大きい155ミリ榴弾砲を自走化する必要があった。

これは,従来のけん引式のものに比べ,発射速度は約2倍,射撃準備に要する時間は約3分の1,射程は約2割増に向上し,また,優れた機動力と装甲防護力を備えている。 

(ウ) 75式130ミリ自走多連装ロケット弾発射機

このロケット弾発射機は.地域目標(幅と縦深をもった目標)に対する瞬間同時制圧(ごく短時間に多量の砲弾を目標地域に集中すること)火力として,昭和44年度から約5か年をかけて開発したものであり,52年度から取得する予定である。

このロケット弾発射機は,ほぼ瞬時に30発を発射して地域目標を制圧できるほか,路外機動力及び装甲防護力もあり,普通科部隊や戦車部隊と共に行動して,密接な支援を行うことができる。

(2) 海上自衛隊

ア 対空ミサイルとう載護衛艦

対空ミサイルとう載護衛艦「たちかぜ」が昭和51年3月に就役し,「あまつかぜ」(就役中)とあわせて,対空ミサイルとう載護衛艦は2隻となる。「あまつかぜ」との主な相違は,ミサイル・システムがターター・システムの改良型であること,3インチ速射砲が5インチ速射砲に変ったこと,排水量が3,850トンと大きくなったこと等である。

今日の著しく進歩した航空機や対艦ミサイルによる攻撃に対処するため,各国とも艦隊の中核となる対空ミサイルとう載艦艇の整備を進めている。

わが国も「たちかぜ」の就役によつて2個護衛隊群がそれぞれ1隻づつ対空ミサイルとう載護衛艦を保有することになる。なお,現在,さらに1隻建造中である。

イ ヘリコプターとう載護衛艦

最近の潜水艦の高性能化に対応するには,捜索能力及び攻撃能力が大きく,持久力に富む護衛艦と,探知,攻撃力をもち機動力に富む対潜へリコプターとを組み合せる装備体系が必要となっている。

海上自衛隊は,へリコプターとう載護衛艦として既に「はるな」,「ひえい」の2隻(各4,700トン)を就役させているが,昭和50年度新たに1隻(5,200トン)の建造に着手し,51年度にもさらに1隻の建造着手を予定している。

この2隻が完成すれば,2個護衛隊群に各2隻が配備されることになる。

ウ 潜水艦

「たかしお」(1,800トン)が昭和51年1月に就役した。これは水中性能の良いいわゆる涙滴型の艦型をもち,コンピュータ−の導入によって情報処理能力の向上を図るなど最新の技術をとり入れている。

就役中の涙滴型潜水艦は,これで6隻となった。

また,50年度には新型の2,200トン型潜水艦の建造に着手している。

エ 掃海艇

掃海艇は,沿岸や港湾に敷設された機雷を除去,処分するための艦艇である。

51年度建造に着手する掃海艇は,遠隔操縦により,機雷を安全に爆破できる「機雷処分具」を装備するよう計画している。

オ 補助艦艇

(ア) 補給艦

補給艦は,護衛艦が長期間洋上においてその能力を維持発揮するために必要な燃料や糧食等の補給に当たる。

これは,多量の物資を高速で輸送する能力があるので,救援活動等民生協力にも大きな力を発揮する。

現在,この種の艦艇としては,給油艦「はまな」(2,900トン)1隻があるだけであるが,昭和51年度に補給艦(5,000トン型)1隻の建造を計画している。

(イ) 海洋観測艦

周辺海域の海象や気象などの実態を知るための海洋調査は重要であり,それを行うのが海洋観測艦である。

このための艦艇としては,現在,海洋観測艦「あかし」(1,420トン)のほか,沿岸や港湾調査用の小型観測艇4隻がある。しかし,これではわが国周辺の広大な海域において必要な観測ができないため,昭和51年度に,海洋観測艦(2,000トン型)1隻の建造に着手する予定である。

カ 水中処分隊

水中処分隊は,海底に敷設された機雷などを捜索,発見してこれを処分する部隊である。

平時においても,海底にある機雷,砲弾類などの爆発物,危険物を処理するなど民生協力の面でも種々の貢献をしている。昭和41年,全日空機の木更津沖遭難事故の際の活動はその1例である。

この水中処分隊は,現在横須賀及び呉に各1隊があるが,さらに51年度大湊,舞鶴に各1隊を加える。

キ 救難飛行艇部隊

基地周辺の航空機の遭難については,各基地の救難へリコプターが救助に当たるので即応性が高い。

しかし,へリコプタ−は航続距離が短いため,遠く離れた洋上での遭難については十分には対応できない。

艦船は捜索,救助には力を発揮するが,現場への到着に時間がかかりすぎる。

このため,対潜飛行艇PS−1を改造した救難飛行艇を昭和51年2月までに3機就役させ,同年半ばごろに洋上救難を専門とする航空隊を編成して実動態勢に入る計画である。

この救難飛行艇は,航続距離が長く広範囲の捜索に適しているうえ,離着水性能が優れているので,洋上に着水して救助することが可能である。

ク 次期対潜機

海上自衛隊は,発足以来対潜水艦部隊の育成を重視し,これまでに対潜作戦用の艦艇,航空機の整備に力を注いできた。

対潜航空機は,陸上固定翼機,飛行艇及び回転翼機に分けられ,現有勢力は,第20表のとおりである。

P2V−7は,昭和30年,米国からの無償供与に始まり,昭和40年までに約50機がわが国においてライセンス生産されたが,既に寿命に達したものが多く,現在約1個航空隊を残すだけとなり,それらも間もなく除籍される予定である。

S2F−1は元来艦載機であるが,昭和32年から約3年の間に約60機が米国から無償供与され,昭和30年代においては,P2V−7と合わせた約120機が対潜航空機部隊の主力をなしていた。

しかしながながら,このS2F−1も逐次耐用の年数に達し,50年代後半には,全機姿を消すことになる。

P−2Jは,P2V−7を原形として,わが国において改造したものであり,P2V−7に代わるものとして,昭和41年以降これまでに約65機が国内生産されている。現在,P2V−7,S2F−1及びP−2J合わせ約130機を保有している。

一方,主要国の潜水艦は,近年,ますます原子力推進化され,水中速力の高速化と水中航続性能の飛躍的な向上が図られている。また,航走音をできるだけ小さくするための技術も進んできており,その隠密性や攻撃を回避する能力が一層増大している。このため,潜水艦を探知・攻撃することがより難しくなってきている。

このようなすう勢に有効に対応するためには,今後は捜索能力及び情報処理能力の近代化を図る必要があるが,現在のP−2Jでは機体にそのための余裕がないので,新たにP−2Jの後継機(次期対潜機)を整備することが必要である。

次期対潜機については,昭和49年12月28日の国防会議議員懇談会の「技術的,財政的基盤等の諸条件について調査する。」という了解事項に基づいて,国内開発,外国機の導入及びこれらの折衷案について検討を進めており,ポスト4次防策定の一環として処理されることとなる。

(3) 航空自衛隊

ア F−4EJ(要撃戦闘機)部隊

F−4EJ(ファントム)部隊の建設は,昭和48年10月百里(茨城県)に第301飛行隊を編成し,パイロットの機種転換教育を実施することから始まった。49年10月には,第302飛行隊が千歳(北海道)に配備され,50年11月から領空侵犯に対する措置(本章4)を行うこととなった。現在,第303飛行隊を小松(石川県)に配備するよう準備を進めている。

F−4EJは,4次防期間における要撃戦闘機(F−104J及びF−86F)の減少を補うとともに,全天候下(雲中等)における要撃等,防空能力の質的な向上を図るものである。

イ RF−4E(偵察機)部隊

偵察機は,侵攻する上陸用艦艇等を海上で阻止するための作戦や陸上における戦闘を支援するための作戦等に必要な戦術情報を収集するものである。これまで使用していたRF−86F(F−86Fの偵察型)は,老朽化が著しく,また偵察能力も不備(有視界下の目標偵察能力しかもっていない等)であるため,RF−4E(ファントムの偵察型)を採用した。

この新偵察機を装備する第501飛行隊は,機種の更新に伴って昭和50年9月,入間(埼玉県)から百里に移転している。RF−4Eの配備によって,全天候下における戦術上の偵察のはか,平時における災害地の偵察や北海道周辺の海氷観測などに格段の能力が発揮されることとなった。

(参考)RF−86Fは光学カメラのみとう載

ウ C−1(中型輸送機)部隊

輸送機の部隊は,空挺作戦や陸・海・空自衛隊の機動展開等の空輸作戦を実施するものである。

昭和48年12月,第402飛行隊(入間)に,C−1(中型輸送機)を装備した。

C−1は,これまで使用していた第2次大戦時代のC−46が逐次廃止されるので,これを補い,さらに空輸能力の向上を図るものである。

C−1は,昭和41年から国内開発に着手し,45年11月初飛行に成功したもので,その配備によって,空輸能力が向上し,災害地への救援物資の輸送などにも一段と力が発揮できることとなった。

エ T−2(高等練習機)

T−2は,ジェットパイロットの飛行教育体系の最終段階で使う新機種で,昭和51年3月から新たに編成された松島(宮城県)の臨時第21飛行隊がT−2を使用して飛行教育を開始している。これは,従来用いていたF−86Fが減勢してきたことのほか,第一線機種がF−4EJ,F−104J等超音速機が主体となることに伴って,超音速の練習機が必要となったためである。これにより,戦闘機パイロットの飛行教育の課程は,漸次第32図のように変る。同練習機は,昭和42年から国内開発に着手し,46年7月初飛行に成功したわが国最初の超音速機である。

(注)前期型は,戦闘操縦基礎課程で使用するもので,主要とう載装備は持っていない。

オ 新戦闘機

(ア) 航空自衛隊が,保有している要撃戦闘機は,F−4EJ,F−104J,F−86Fの3機種で,現有勢力は,第21表のとおりである。

F−86Fは,朝鮮戦争時代に出現した亜音速の昼間戦闘機で老朽化したため,昭和50年代中期までに逐次用途廃止される。

F−104Jは,超音速戦闘機であるが,就役後既に10数年を経過し,現在では諸外国が保有している新鋭機には,低空要撃能力,電子戦能力(相手側の電子機器に妨害を与えその機能を低下又はそう失させるとともに相手から受ける妨害を排除する能力)及び対戦闘機戦闘能力(戦闘機を相手とする戦闘能力)において,対応できなくなってきており,昭和50年代中期ごろから逐次用途廃止される見込みである。

F−4EJは,現在のところ諸外国の軍用機におおむね対応できる航空機である。

しかし,航空軍事技術の進歩等から,諸外国の軍用機は,格段とすぐれたものになりつつあり,F−4EJでも十分に対応できなくなると考えられる。例えば,爆撃機では,超音速機が実用化されつつあり,高空での超音速飛行はもとより,超低空においても音速付近の速度での飛行が可能となっている。戦闘機では,運動性(旋回,上昇,加速等),加速性が飛躍的に向上して,対戦闘機戦闘能力が強化され,また,航続距離及びとう載量の増大によって,侵攻可能範囲も一段と拡大している。さらに,電子技術の進歩により,爆撃のための精密な計算,照準用器材が用いられ,全天候下において超低空で侵入し,爆撃することが可能となるほか,侵攻機それぞれが多様かつ広範な電子戦能力を持つに至っている。

このような状況から,今後逐次減勢するF−104Jの代替として,また予想される侵攻側の質的向上に対応するため,新戦闘機(FX)の選定準備を進め,航空機の質と量とを確保する必要がある。

新戦闘機の選定準備作業は,昭和50年4月から始まり,欧米6か国ヘ海外資料収集班を派遣する等慎重な検討を行ったうえ,昭和51年1月候補機種として,米国のF−14F−15F−16の3機種を選定した。

昭和51年度には,これらの候補機種について,運用,技術,整備,補給,教育,生産調達等の面から,さらに詳細な調査を行うこととしており,このために調査団の米国への派遣,費用対効果分析等を実施するなど十分検討のうえ,ポスト4次防の一環として,国防会議に諮って機種等を決定する予定である。

 

(注) 固定翼機 固定した翼によって飛行中の揚力を得る航空機

(注) 回転翼機 へリコプター〔ローター(回転翼)によって飛行中の揚力を得る航空機〕

(注) 要撃戦闘機 侵攻する航空機に対する防空用の戦闘機

(注) 高空(高高度)約11,000m以上の高度

(注) 超低空(超低高度)約600m以下の高度

(注) F−14 米国グラマン社製の複座戦闘機。米海軍が採用している。

(注) F−15 米国マグダネル・ダグラス社製の単座戦闘機。米空軍が採用している。

(注) F−16 米国ジェネラル・ダイナミックス社において開発が行われている単座軽量戦闘機

4 スクランブル(緊急発進)

(1) 最近の領空侵犯の事例

 わが国周辺におけるソ連軍用機(推定を含む)の行動は,第1章で述べたとおり,かなり活発で,年間約200回にのぼり,わが国領空への接近飛行も少なくない。

 昭和50年9月24日には,太平洋を南下したソ連機(TU−95ベアー)2機が,奄美大島東方約240km付近で反転した後,北上,同日15時11分から1分間伊豆諸島の式根島及び神津島間を通過し,わが国の領空を侵犯した(第33図)。

 航空自衛隊は,このソ連機に対して,三沢(青森県),百里,小牧(愛知県)及び築城から,F−86F及びF−104J要撃戦闘機の合計7個編隊によりスクランブルを実施し,監視に当たっていた。しかし,この領空侵犯が極めて短時間であったことと,その付近に雲が多かったことにより,特別の措置をとるまでには至らなかった。なお,わが国は,この件について2回にわたって抗議を行ったが,ソ連側はその事実を否定している。

 昭和49年2月には,ソ連機が北海道の礼文島の領空を侵犯した事例があり,このときは,わが国の抗議に対し,ソ連側も侵犯の事実を認めた。

(2) スクランブル態勢のしくみ

 航空自衛隊は,わが国の領空に不法に侵入する航空機に対し,必要な措置(着陸又は領空外に退去させる等)をとり,領空の秩序を維持することを任務の一つとして与えられている。

 このため,航空自衛隊は,わが国周辺空域について,昼夜休みなく警戒監視をつづけるとともに,要撃戦闘機を常時スクランブル可能な態勢においている。

 警戒監視については,航空警戒管制部隊が担当し,第34図のように全国28か所に配備されたレーダーサイト(警戒群)で,わが国とその周辺の上空を飛行する航空機の警戒監視を常時行っている。

 特に,南西防衛区域(沖縄)以外の区域については,全レーダーサイトの探知範囲を飛行する航空機の状況を複数の中枢又は中央で同時に監視できる自動防空警戒管制組織(バッジシステム)が整備され,これによって,迅速に適切な行動がとれるようになっている。

 警戒管制部隊は,防空識別圏第34図)内を飛行又は出入りするすべての航空機について,あらかじめ連絡を受けている飛行計画,位置通報等を照合して,その識別を行う。

 国籍不明機や飛行計画等で照合されない航空機については,警戒監視をつづけ,領空に接近してきた場合には,もよりの要撃戦闘機にスクランブルが指令される。

 一方既に待機を命ぜられている要撃戦闘機(2機単位)は,スクランブルの指令を受けると5分以内に発進し,特定のレーダーサイトからの誘導を受けて,国籍不明機等を捕捉する。

 発見後は,その航空機の国籍,機種等を確認した上,状況に応じて,行動の監視等必要な措置をとる。

(3)最近のスクランブル回数 

 

(注) スクランブル 国籍不明機等がわが国領空に接近してきた場合,それを確認し又は必要な措置をとるためあらかじめ待機中の戦闘機をできるだけ速やかに離陸させること。

(注) 防空識別圏 防空上の必要に基づき,進入する航空機等の識別,位置確認及び飛行に関する必要な指示を行うよう定められた空域

5 訓練空域等の制約

(1) 訓練空域

 昭和46年7月30日全日空機と、航空自衛隊機の接触事故発生後,政府は,「航空交通安全緊急対策要綱」を決定し,自衛隊の訓練空域は,運輸大臣と防衛庁長官とが協議し設定して公示することとした。

 この要綱に基づき,昭和46年8月以降,現在までに,高高度訓練空域11か所,低高度訓練空域9か所の計20か所が設定されている。

 これらの訓練空域は,訓練効率という観点からみると面積,位置等の点で満足できるものではない。特に,ジェット機が使用する高高度訓練空域は,ジェット機の性能(速度が速く,旋回半径が大きい等)上,相当の広さを必要とするが,全般に,広さが十分でなく,空域によっては超音速飛行ができないところもある。

 また,基地によっては,訓練空域が遠隔にあって往復に時間を要し,実質的な訓練時間が少なくなってしまうものがあるほか,訓練空域のないものもある。

 この困難な状況において,当面は,訓練空域の増設及び拡大を検討しているところであるが,航空交通量の増大しつつある今日,これにもおのずから限界がある。今後は,西欧諸国で行っているように,訓練空域と航空路等との分離についても,レーダーの活用等により,航空交通の安全を確保しつつ,飛行訓練を効果的に実施し得るような施策,例えば,時間差を利用する方法や,きめ細かい高度分離を行う方法等の推進が必要であろう。

(2) 演習場及び訓練海面

ア 演習場についても,困難な条件が多い。

陸上自衛隊の主要な演習場の現況は,第35図のとおりであるが,師団以上の大部隊の演習を行うことのできるものは少ない。このため,指揮所演習(部隊は実際の行動を行わず,指揮機関だけを設置して行う演習)等によって練度の維持を図らざるを得ない状態にある。

特に,中部方面隊の場合は,大部隊の行う演習場がなく,沖縄所在部隊においては,演習を行う場所が皆無である。また,一般的にいって,演習が実施できる場合でも,周辺への影響について慎重な配慮を十分に行う必要がある。特に射撃を伴う訓練については,射場の運用(射撃の時期,方向,距離及び弾量等)について厳じい制約がある。

イ 訓練海面にもまた各種の困難がある。例えば機雷掃海訓練のためには,水深10mから50mまでの浅い海面が必要である。この条件を満たし,しかも一般船舶の航行や漁船の操業等との競合がなく,訓練海面として設定できるところとしては,むつ湾(青森県)や関門海峡西口などごく一部に限られる。こうした状況で,50年度の訓練可能海面は6か所,1か所当たり年間約15日であり,しかもその時期は8月又は冬季の閑漁期に集中しており,関係部隊は,訓練計画の作成上苦慮している。

その他潜水艦の救難訓練などについても,事情は違うが同様の問題がある。

(資料7) 

6 教育の拡充

(1) 防衛医科大学校の開校

 医官の充足率は,昭和50年末現在,27.6%(歯科医官は38%)と非常に低い。艦船乗組や,へき地での部隊勤務の隊員が多い自衛隊にとっては,医官不足は極めて深刻な問題である。

 この状況を改善するため,昭和兆年11月に医師である幹部自衛官となるべき者を養成する機関として防衛医科大学校(埼玉県所沢市)を新設し,49年度から教育を開始した。

 学生の定員は,1学年80人で,人格,識見ともに優れた有能な臨床医としての自衛隊医官の養成を目標とし,次の3項目を教育の基本方針としている。

ア 医の倫理に徹し,生命の尊厳を深く認識させるとともに,自主的精神,規律ある態度及び責任感をもって行動する気風並びに強健な体力とおう盛な気力を養い,医師である幹部自衛官としての職責を尽くし得る性格を育成すること。

イ 健康増進,疾病の予防及び治療に関する包括医療を適用できる臨床医として,並びに医学研究者として要求される高い教養と医学に関する広範な知識及び臨床的実力を授けること。

ウ 幹部自衛官として必要な基礎的な訓練要項について練成するとともに,その職責を理解して,これに適応する資質及び技能を育成すること。

このため,教育内容は,学校教育法に基づく一般の医科系大学の課程に準拠した進学課程2年と専門課程4年とからなる教育課程を含むほか,幹部自衛官となるための訓育,基本教練及び部隊実習からなる訓練課程を加えている。

卒業生には,医師国家試験の受験資格が与えられる。卒業生は,卒業後9年間は隊員として勤続するよう努めなければならず,この期間内に離職する場合には,原則として所定の金額を償還しなければならない。

入学試験に対する応募倍率は,第1期生(49年度入校)43.2倍,第2期生(50年度入校)52.5倍,第3期生(51年度入校)63.5倍と極めて高い(資料10)。

なお,本校に付置する予定の防衛医科大学校病院は,広く地域住民の利用にも開放され,医療面で地域に貢献できるはずである。

(2) 防衛大学校における人文・社会科学教育の強化

 防衛大学校(横須賀市)は,昭和29年の創立以来,その卒業生を陸・海・空自衛隊に送り,51年3月に卒業した第20期生を加えると,その数はおよそ8,000人に上り,全自衛隊3尉以上の幹部の約19%を占めるに至っている(当初の卒業生は,すでに2佐の階級を占めている)。

 防衛大学校の教育は,伸展性のある資質,特に科学的な思考力の育成に力を注ぎ,このためカリキュラムの重点を理工学教育に置いてきた。

 しかしながら,今日,防衛問題は,政治,経済,外交等と深いかかわりあいを持ち,幹部自衛官となるべき者は,人文・社会科学の分野を含めた広い教養と視野を持つことが要求されている。このため昭和49年度から,人文・社会科学専攻部門を設けることとした。

 この人文・社会科学専攻部門は,組織の管理運用に関する管理学専攻と,複雑な国際関係に関する国際関係論専攻の2部門で,この結果,専攻区分及び主要教育内容は,資料11−(1)のとおりとなった。また,改正後の専攻別,要員別の学生配分の基準は,第22表のとおりである。

 この新しい人文・社会科学専攻部門の入学試験に対する応募倍率は,昭和49年度入校生37.5倍,50年度入校生38.9倍で,さらに51年度入校生については59.4倍と非常に高い(資料10)。

 なお,防衛大学校には,以上述べた本科のほか,理工学研究科があり,昭和36年の開設以来逐次整備されてきたが,50年度をもって,当初計画していた7専攻45系列の設置を完了した(資料11−(2))。

 7 隊員の意識

 自衛隊員は,その任務の特性から,厳格な規律の下におかれ,その仕事は,有事に備えての日常の厳しい訓練又は災害派遣等に見られるように労苦と危険を伴い,隊員の勤務条件は,極めて厳しいものがある。このことは,隊員が任命されるに当たって,「事に臨んでは危険を顧みず,身をもって責務の完遂に務め,もって国民の負託にこたえる」旨の宣誓を行うことや,曹・士の隊員が営舎内に居住する義務を負っていること等からも明らかであろう。

 このような厳しい環境に自ら身を投じている自衛隊員は,一般社会から見れば,かなり特殊な気質をもった人間であるかのように映るかも知れない。

 一方,隊員の「サラリーマン化」を指摘し,有事に国民の期待に応えるだけの働きができるかどうか危ぶむ声もある。実際のところ,隊員の気質は千差万別であり,その意識も極めて多種多様である。もっとも,意識の多様性は,わが国の社会一般にも見られるところであって,その反映であろう。

 昨年,陸上自衛隊では,自衛官の意識調査を行った。

 この調査で見られた隊員の充実感,人生観,訓練・演習に関する意識は,次のとおりである。ちなみに,陸上自衛官は,全自衛官の約65%を占めている。

(1) 全般的な傾向の概観

 充実惑については,74%の者が自衛隊の毎日の仕事にやりがいを感じている。しかし,階級によって大きな差があり,生涯の大半を自衛官として過すこととなる幹部や陸曹では,80%以上の者がやりがいを感じているのに対し,任期制隊員である陸士では,約52%にすぎない。やりがいを感じていない理由として,幹部では「自衛隊の社会的地位が低い」(25%)ことを強く感じているのに対し,陸士では「自分の希望や欲求が満されない」(30%)ことを強く感じている。

 人生観については,暮し方の理想として「趣味にあった暮し」を挙げる者が最も多く(28%),次いで「真面目に働き名をあげる(名誉)」又は「社会のために尽す」を挙げる者が多い(いずれも22%)。「趣味にあった暮し」は階級を問わず最も多いが,次の「真面目に働き名をあげる(名誉)」と「社会のために尽す」については,幹部では後者が,陸曹・陸士ではやや前者が多い。

 訓練・演習については,厳しいとは思わない者が全体として74%を占め,もっと厳しい訓練を必要と認める傾向が階級を問わず多い(幹部81%,陸曹78%,陸士75%,全体で77%)。

(2) 陸士の意識

 陸士は,陸上自衛官現員の約3分の1を占め,平均年令は,20歳代前半であり,自衛官としての経験年数も短かい。特に,この陸士について見ると,次のとおりである。

ア 充実感について

陸士の充実感とその理由は,第36図のとおりである。

やりがいを感じる者は,その理由として「国を守るという任務」を挙げる者が多い。

他方,やりがいを感じない者は,「自分の希望や欲求が満されない」,「自衛隊の仕事そのもの」を挙げる者が多い。

イ 人生観について

陸士の人生観は,第37図のとおりである。

「趣味にあった暮し」を挙げる者が最も多いのは,時代の風潮であろう。「真面目に働き名をあげる(名誉)」と「社会のために尽す」が次に多い。

ウ 訓練・演習について

陸士の訓練・演習に対する所感は,第38図のとおりである。

現在の訓練・演習が「あまり厳しくない」と思う者は,約60%にのぼる。しかし,「非常に厳しい」,「厳しい」と思う者のうち,約63%の者が,「厳しいのは当然で今後も厳しく」したらよいと考えており,また「あまり厳しくない」,「厳しくない」と思う者のうちでも約80%の者は「もう少し厳しく」,「もっと厳しく」と考えていて,全体として,もっと厳しい訓練・演習を望む者が多い(75%)。

 

(注)調査の方法は,次のとおりであった。

ア 母 集 団 2等陸佐以下の陸上自衛官(新隊員被教育中の陸士及び婦人自衛官を除く)

イ 標本数,有効回収数,回収率

ウ 抽出方法 無作為抽出法

エ 調査時期 昭和49年12月中旬〜50年1月中旬

オ 調査方式 調査票による質問紙法,無記名

8 隊員に関する施策

(1) 一般曹候補学生制度

 自衛隊を精強に維持するためには,清新ではつらつとした若い自衛官を年々新たに確保するとともに常に新陳代謝を図っていくことが望ましい。

 26万6,000人の自衛官定員を擁する自衛隊では,現在年間約3万人の若者を採用しているが,これは前にも述べたように年間退職者数にほぼ見合う数字である。この3万人の採用者のうち,約3,000人は,防衛大学校及び防衛医科大学校の学生,航空学生,看護学生並びに一般幹部候補生など長期勤務を前提とした採用である。残りの約2万7,000人は,2年又は3年の勤務を前提として採用している任期制の隊員(2等陸・海・空士)である。このうち任期制の隊員は,中学卒以上が採用の基準となっているため,高校への進学率が向上している現在,その募集は次第に困難となっている。こうした事情を考慮しつつ,高卒者のうちから高資質の者を隊員に採用するため,昭和50年度から,長期勤務を前提とした一般曹候補学生制度を発足させ,第1期学生の教育を51年度から行うこととした。

 この制度は,18才以上20才未満の高卒男子を非任期の2等陸・海・空士として採用し,2年間の教育訓練の後,3等陸・海・空曹に昇任させるものであり,高卒者が従来に比較して早期に3曹に昇任ができることになる。

 第1回の採用試験は,昭和50年10月に実施されたが,採用予定数1,000人に対して,応募者は約2万2,000人とその倍率は22倍にのぼった(資料10)。

 ちなみに,従来から長期勤務を前提として採用している航空学生,看護学生(高卒者対象)や自衛隊生徒(中卒者対象)についても,昭和51年度採用者の応募倍率は高くなっている(資料10)。

(2) 営舎内居住隊員の給与改善

 自衛官の俸給は,職務が類似する公安関係の国家公務員の俸給と均衡をとって定められているが,自衛官の約83%を占める曹・士の隊員は,本来,営舎内に居住することが原則(ただし,家族を有する曹については,許可を受けて営外に居住することができる)であるため,従来,その俸給額は,あらかじめ食事代等の営舎内生活に要する費用を控除して計算され,したがって,建前としては無料であっても実質的に有料となっていた。

 曹・士の隊員の営舎内居住義務は,自衛隊法及びこれに基づく規定により課しているもので,その目的は,有事即応態勢をとることとともに,共同生活を通じて団結と規律と士気を維持向上することにあり,自衛隊にとって不可欠の制度である。

 したがって,隊員個人に食事代と光熱水料等の営舎費を実質的に負担させていることについては,かねてから.その改正が望まれていたところであるが,昭和50年11月,防衛庁職員給与法の一部が改正され,昭和51年2月から,他の公務員と比較して営舎内居住上の特性が顕著に認められる部分について,その食事代等(1か月9,700円)を国庫が負担する(俸給額に戻す)こととなり,営舎内居住隊員についての大幅な給与改善がなされた。

(3) 殉職隊員の遺族に対する損害賠償の運用の改善

 自衛隊は訓練中の安全管理には非常な努力を払っているが,各種の装備を駆使して精強さを保持するための訓練は本質上厳しい条件を伴うものであり,年々相当数の公務災害が発生し,不幸にして死亡する殉職者の数も少なくない(資料13−(3))。

 これら殉職した隊員の遣族に対しては,防衛庁職員給与法により一般の公務員の場合と同様の公務災害の補償金が遣族に支払われている。しかしながら,特に勤続年数の短い若い隊員が殉職した場合は,その補償金額が低額であること等により,遣族の中にはこれを不満とし,近年,訴訟により国に対し損害賠償を請求する事例がふえてきている。

 そこで,昭和51年1月以降,このような事態を回避し,訴訟提起の有無による遣族間の不均衡を是正し,また,迅速に遣族を救済することができるよう,殉職について明らかに国に過失責任があると認められるときは,訴訟手続を経ることなく,遺族からの請求に基づいて損害賠償を実施することとした。

(4) 海・空婦人自衛官の採用

 自衛隊は,はじめ衛生職種(看護婦)に限られていた婦人自衛官の職種を昭和43年に,陸上自衛隊の通信等の一般職種にも拡大して成果をあげてきたが,さらに昭和49年度には,海上自衛隊及び航空自衛隊にも婦人自衛官制度を新設した。

 昭和50年12月31日現在の各自衛隊における婦人自衛官(看護婦を除く)の状況は,第23表のとおりである。

(5) 人事制度に関する総合施策の検討

 生活水準の向上,若年労働力の減少,進学率の向上等自衛隊をとりまくわが国の環境は著しく変化しつつあるが,これらの変化に対応していくため,昭和49年9月,庁内に人事制度調査委員会を設置し,人事制度全般について再検討を行った。同委員会は,自衛官の募集方法,採用方式,昇任制度,福利厚生,停年制度,就職援護等について数々の施策を提案した。これらの提案の具体化については,なお種々の問題があるので,引き続きさらに検討を進めるとともに,今後段階的にその具体的実施を図るよう努めていきたい。

 

(注) 幹部,准尉,曹,士 陸上自衛官の階級には,陸将,陸将補,1等陸佐,2等陸佐,3等陸佐,1等陸尉,2等陸尉,3等陸尉,准陸尉,1等陸曹,2等陸曹,3等陸曹,陸士長,1等陸士,2等陸士及び3等陸士の16階級がある。防衛庁では,陸将から3等陸尉までを「幹部」と,1等陸曹から3等陸曹までを「曹」と,陸士長以下の階級を「士」と,それぞれ呼称している。

 以上は,海上自衛官及び航空自衛官についても同様である。

(注) 営舎費 隊員の生活の場である営舎で使用される備品の購入費,電気料,水道料等の経費

9 装備の研究開発及び国産

(1) 基本的な考え方

ア わが国の防衛上必要とする装備を,自国の手で研究開発して,国産することは次のような利点を持っている。

第1に,わが国土・国情に適した装備を持つことができ,装備の維持・補給が容易となる。

第2に,防衛技術の開発力が増大するとともに民間への波及効果を期待できる。

その結果,装備の維持管理上自主性を確保できるとともに潜在的防衛力が培養されることとなる。このような見地から,わが国では,戦車(61式,74式),装甲車(60式,73式),対戦車ミサイル(64式対戦車誘導弾及び同発射装置),対潜飛行艇(PS−1),支援戦闘機(FS−T2改),練習機(T−1,T−2),輸送機(C−1)等を研究開発し,国産してきた。

これらの研究開発及び国産に当たっては,主として民間企業の開発力及び技術力を活用すること,長期的な観点に立ち効率性,経済性及び安定性を考慮しつつ計画的に実施すること等に努めてきた。

イ 装備のうち,その開発に高度の技術を要し,わが国の技術レベルでは当面開発できないか,開発のためぼう大な経費を要するものについては,製造技術の取得と装備の維持・補給面の容易さを考慮して,外国のライセンスにより国産を進めてきた。

スイスのL−90高射機関砲,米国の地対空誘導弾(ナイキ及びホーク),戦闘機(F−86F,F−104J,F−4EJ),対潜哨戒機(P2V−7),各種へリコプター,自動防空警戒管制組織等がその代表例である。

ウ また,国内技術では開発できないもの又は生産量が少ないためライセンス生産すると価格が著しく高くなるようなものについては,輸入に依存している。

ジェット偵察機(RF−4E),艦対空誘導弾(ターター),空対空誘導弾(サイド・ワインダー)等がその例である。

エ 一般的に言えば,冒頭に挙げた理由により,装備は,国内開発して国産するのが望ましいものではあるが,わが国では,主要国と異なり防衛庁の発注が少なく,武器輸出も厳しく制約されているため,生産量が非常に少ない。加えて,近年人件費の高騰,石油ショックの影響等もあって,国産装備の価格が著しく高くなり,一定の経費枠内で所要の装備を整備し難くなりつつある。

輸入装備は,技術レベルの高い,安定性,信頼性の十分なものを選んで輸入しているが,一般に価格は国産より割安である。しかしながら,他面輸入装備は,国産装備に比べて装備の維持・修理のための部品補給に支障が生じる場合があり,また何よりも,国内技術の向上ができず,その部門について先進国との技術格差がますます増大することになる。

以上,要するに,装備の国産(ライセンス生産を含む)と輸入にはそれぞれ長短があるので,いずれによるかは将来を見通してケース・バイ・ケースで決定してきている。

(2) 今後の課題

ア 装備を研究開発し,国産しようとする場合その取得までには通常約10年の長期間と多額の資金及び有能な人材を必要とする。また防衛技術の進歩の激しい今日においては,研究開発の対象分野は極めて多岐にわたる。

しかしながらわが国の場合,研究開発関係経費には,現在の防衛関係費の枠内では多くを割き得ない状況におかれている。研究開発関係経費の防衛関係費に占める割合を4次防期間についてみると,人件費の比重の高まりと物件費のうち維持的諸経費の確保の必要におされ,昭和47年度の1.7%から51年度は1.2%へと逐年低下している。米英の研究開発費が対予算比では10〜12%程度,西独,仏は5〜8%程度を占めていることを考慮すれば,上記の傾向は今後検討すべき一つの課題であろう。

さらに,防衛技術は,特殊な分野が多く,これに従事する技術者の維持育成は,防衛庁においても,民間においても,次第に困難になりつつあり,また諸外国と違って大学の協力も得にくい現状にある。

このような技術者の確保,協力体制のあり方が,今後の一つの問題点である。

イ 今後も引き続き,以上の厳しい環境のもとにあろうが,装備の研究開発及び国産の重要性にかんがみ次のような課題と取り組むこととしている。

(ア) 研究開発項目の重点的選定

将来の技術及び装備のすう勢をふまえ,運用構想,経済性,技術力の維持育成等の見地から研究開発項目を重点的に選定すること。

(イ) 研究開発における評価,チェックの厳正化

研究開発を効率的に推進するため計画,設計,試作,試験の各段階において技術,経費面からの評価の徹底を期するとともに各段階で,研究開発の継続,中止等の適確な措置をとること。

(ウ) 適正な国産化

研究開発段階で量産価格の低減に配慮するとともに研究開発終了後の量産に当たり,輸入可能な同種の外国装備の性能及び価格等を比較検討し,適正な国産化に努めること。

 

(注) ライセンスによる国産 外国企業が開発し,生産している装備品を,わが国企業が当該外国企業と技術援助契約を締結した上で,外国企業の設計図等に基づき国内で生産すること。

10 防衛関係費の動き

(1) 防衛関係費とその推移

 防衛関係費は,自衛隊の維持運営に必要な経費のほかに,防衛施設周辺の生活環境の整備等の事業のための経費を含み,さらに,国防会議の運営に必要な経費を含んでいる。この防衛関係費は,国全体の経済財政事情を配慮し,民生安定その他一般諸施策との均衡を考慮して決定されてきている。

 これまでの推移は,絶対額では毎年増加しているものの,一般会計歳出予算に占める比率は年々減少を続けており(第39図),この間社会保障関係費,文教及び科学技術振興費などが著しい増加を示しているのと際立った対比を見せている(第40)。

 また,防衛関係費のGNPに対する比率は第39図に示すとおり,昭和42年度以降1%以下で推移している(資料12−(1))。

(2) 4次防期間における防衛関係費の内訳

  防衛関係費の内訳を4次防期間(47〜51年度)について見ると,第41図及び資料12−(2)のとおりである。この期間の防衛関係費全体の平均伸び率は,17.7%であって,一般会計歳出予算の平均伸び率20.9%を下回っている。

 防衛関係費を人件費(糧食費を含む)と物件費に大別すると,この期間においては,人件費が年々の給与のべースアップ等に伴って,比重が高まる一方,逆に物件費の比重が大きく落ち込んでいるのが顕著な傾向となっている。特に,48.49両年度のべースアップが大幅であったこと等により,人件費は,平均21.7%という高い伸び率を示し,防衛関係費に占める割合は,47年度に46.6%であったものが,51年度には56.0%に達している。

 その結果,装備品の購入,後方支援施設の整備,自衛隊の維持などに充当される物件費の平均伸び率は,11.5%にとどまり,その防衛関係費に占める割合は,51年度には44.0%まで低下するに至った。また,48年のいわゆる石油危機を契機として著しい単価アップが生じていることを勘案すれば,物件費関係については,実質的には極めて厳しいものとなっている(資料12−(2))。

 しかし,物件費の中でも営舎費,被服費等の経費は,隊員の生活維持経費であることから,物価の上昇に応じて所要の増額が図られた結果,

 防衛関係費に占める割合は,ほぼ横ばいとなっている。また,油購入費,装備品の維持修理費等の経費は,平時における自衛隊業務の中心をなす教育訓練にかかわる経費であるので,これについてもその割合は期間中ほぼ横ばいとなっている(第41図)。

 さらに,基地対策費については,47年度における沖縄復帰に伴う大幅な増額につづき,最近における基地問題の重要性にかんがみ,基地周辺整備事業を中心にその充実が図られた結果,防衛関係費に占める割合はむしろ高まっている。

 以上のように,限られた物件費の中でも維持的な諸経費を確保する必要から,装備品等購入費,施設整備費,研究開発費といった投資的経費はさらに制約され,その割合はいずれも低下している。

 特に,陸上装備,艦船,航空機等の装備品等購入費は,近年の著しい値上りの条件下で,平均8.6%の伸びにとどまり,その防衛関係費に占める割合は,47年度の24.9%から51年度の16.4%へと著しく減少している。装備品等購入費のこのような抑制に伴って,4次防の主要項目変更という事態が生じざるを得なかったことは,先に述べたとおりである。

 また,施設整備費は,飛行場,港湾などの事業関連施設,隊舎,公務員宿舎などの隊員の生活環境施設等各種施設の整備に要する経費であるが,49,50両年度に総需要抑制の見地から,公共事業系統の経費を厳に抑制するという一般方針にしたがって,ほぼ前年度同額とされたため,その割合が低下し,総じて施設の相対的な立遅れが生じてきている。

(3) 各国との比較

 わが国の防衛関係費の規模を各国と比較してみよう。もちろん,各国の置かれた政治的,経済的諸条件,社会的背景,過去における防衛力の蓄積の度合などが異なるため,表面に現われた計数のみをもって単純な比較を行うことにはおのづから限度があるが,第24表でみると,わが国の防衛関係費は,金額においては世界第10位に位置するものの,対GNP比では世界の中で最も低い国の一つであり,また,国民1人当たりの防衛費及び対歳出予算比においても最も低いグループに属していることがわかる(資料12−(3))。