第1章

国際情勢の動き

 かつての冷戦時代とは異り,今日では国際関係を動かす力は複雑多様化し,その影響も多岐にわたっている。

 第4次中東戦争はこれを契機とする石油危機を生み,世界の国々に深刻な打撃を与えた。それは各国の事情や条件の相違にもとづく対応の多様性を浮彫りにする一方,世界全体の相互依存の深まりをあらためて強く認識させるものであった。地域的な紛争が地球の裏側の国々にも直接的な影響を与え,また問題解決のためには,緊密な国際協力を必要とするようになったのである。

 昨年の国際政治において最も際立った事件としては,ベトナム戦争の終結が挙げられよう。それはこの地域をめぐる国際関係に一つの区切りをもたらしたが,同時に次の舞台への幕開けになろうとしている。この間朝鮮半島ではその影響を受けて一時厳しい緊張がみなぎった。

 ヨーロッパでは欧州安保協力会議(CSCE)で安全保障及び協力に関する一般的合意文書が採択された。しかし,問題はこの合意事項を如何に実現していくかにあり,その前途は未だ多難とみられよう。

 中東では,スエズ運河が開通し,また第2次シナイ協定が成立したが,レバノン紛争その他の動きにもみられるように,この地域をめぐる情勢は依然として流動的かつ不安定である。

 アフリカなどでは,地域的に独立や帰属をめぐる闘争が激化したが,中でもアンゴラでは激しい内部抗争に外国が積極的に介入して国際的問題に発展した。

 目をわが国周辺に転ずると,各国の強大な軍事力が依然として存在しており,特にソ連軍の増強や活動ぶりには著しいものがある。

 このように,複雑な動きを示している国際情勢の中で,米ソは強力な核戦力の存在を前提としつつ,核戦争は避けなければならないという共通の認識をもち,東西関係では,「共存と抗争」という二つの現象が併存しておりその下で近年デタントと言われる動きがみられる。

 この章では.まず国際情勢の流れを展望したのち,核兵器の発達した今日において,集団安全保障体制及び軍事力のそれぞれの一般的な意味と役割を考え,さらにわが国周辺の軍事力の現実についてみることとした。

 

(注) 欧州安保協力会議(CSCE)(CSCE:Conference on Security and Cooperation in Europe)この会議は,75年7月〜8月にヘルシンキで米国,カナダ及び欧州諸国(アルバニアを除く)の首脳が集り,最終文書に署名した。その内容は,4議題に分かれ,第1議題は欧州における安全に関する諸問題,第2議題は経済,科学,技術及び環境分野での協力,第3議題は人間,情報等の交流,第4議題は会議のフォローアップである。

なお,本最終文書の履行状況は,1977年にベオグラードで会議を開いて検討することになっている。

1 共存と抗争

(1) 東西関係の推移

ア 核兵器の登場とその増強は,国際関係と軍事力の意味合いを大きく変えることとなった。米ソは核戦力の充実に伴い巨大な破壊力の相互使用への恐怖が増大し,核戦争及び核戦争に発展しかねない通常戦争の回避を図らざるを得なくなった。両国の対立がどのように存続しようとも危険を回避するための話合いを重ね,必要な政治的,軍事的措置を講じていくことが至上の命題となってきた。特に70年代に入って軍事衝突を予防し規制する数多くの協定等が締結され,また米ソの核兵器を含む大きな軍事力が直接対峙している欧州でも,東西間の話合いが進行した。さらに米ソの利害関係が深くかかわる他の地域においても,対立規制の努力が払われてきた。

イ このように米ソあるいは東西欧州間で話合いが進展した背景には,双方の間に核の相互抑止を基礎とした軍事的均衡の存在がある。また,同時に各国において,国民生活の向上により多くの関心を向ける必要を生ずるとともに,国際緊張の持続によって際限なく軍備を増強するための経済負担を重荷に感ずるようになった。また諸問題の解決に当たって武力行使による強制には大きな制約があるという認識も深まって来た。

他方,アジアにおいては,米中接近は,同地域における国際関係の安定要因となっているが,各国間の歴史的,文化的背景の相違,中ソ対立の存続による影響等欧州と比べ極めて複雑な情勢にある。

ウ 大国間及びそれを中心とする集団安全保障体制間では戦争が強く抑止される状態になって来たのに加えて,世界各国が共通して抱えている広域的な問題が数多く現われて来た。人ロ,貧困,資源,環境,国際通貨等々がそれである。

また,世界経済の発展により経済規模が拡大し,体制を越えての交流も増大した。

1950年代は東西の対立関係が顕著であったが,60年代に南北問題が登場し,国際社会全体の大きな関心事となった。さらに70年代に入って,石油その他の資源及び食糧の問題が大きくなり,各国の国際協力の必要性はますます増大してきた。そしてこれらの諸問題は経済問題であるにとどまらず,安全保障上の問題としても認識されるようになった。

このような国際間の相互依存関係の深まりは,東西関係に影響を与えるものとみられよう。

エ 本来ソ連のいう平和共存は,社会体制を異にする諸国家間の関係において戦争を回避することを主張すると同時に,民族解放闘争の支援及びイデオロギーを含むあらゆる闘争は否定しない政策である。

ソ連共産党第25回大会においても,ブレジネフ書記長は国際緊張緩和の徹底を強調したが,同時にこれが社会主義革命に有利な状況を作り出すものであり,イデオロギー闘争や民族解放闘争の支援ど矛盾しないことを言明した。

一方,米国のいうデタントは,対立する大国関係を律する限定的な政策であって,軍事力を充実し軍事的均衡を保ちつつ,その上に立って他方で話合いを進め,より安定した国際秩序を求めようとするものである。フォード大統領は,本年3月,このような関係をデタントという言葉で表現するのは適当でないとして,ソ連に対しては,「力を通ずる平和の政策」をもって臨む旨言明した。しかし,米国の基本的立場ほ従来と変らないものとみられる。

米ソは底に強い相互不信感をもっており,したがって両国の国内には絶えずデタントに伴う妥協と譲歩に対する批判が存在しているとみられる。

オ 以上のような事情は,当然のことながらデタントの限界を示すものである。デタントはあくまでも核戦争とそれに発展しかねない通常戦争の回避を主軸とするもので,大国の勢力拡張のための,又はその阻止のための政治闘争を阻むものではなく,また大国にとって限られた戦略的意義しか持たない地域における軍事紛争は必ずしも抑制し得るものではない。いったんそのような軍事紛争が起こると,大国は直接的な軍事介入は避けるにしても,いろいろな手段によって間接的に介入を行い勝ちになり,このため国際情勢はさらに複雑の度を加えている。アンゴラ内戦はその実証であり,その影響は他にも波及しそうな情勢にある。

他方,中東のように,大国の集団安全保障体制の圏外であっても重大な利害関係のある地域については,大国間の直接の軍事衝突に至らないよう地域安定化のための努力が行われる。しかし,その調停も,大国のいずれの利害にも大きく反しない範囲においてなされるという限界がありそうである。

力 核保有国中国の登場は,国際政治のあり方を複雑にし,いわゆる世界の多極化の一因となっている。中国は中ソ対立を背景にして絶えずソ連への牽制を試み,また国際秩序が米ソ体制で形造られることへ挑戦している。そのためにも開発途上諸国に接近し,影響力の行使拡大に努めている。中国としては各地域の民族独立闘争,反植民地闘争への支持は欠かせないものであろう。

また,対ソ関係については,両国のイデオロギー上の鋭い対立等からみて,今後,仮に部分的な関係改善はあっても,対立が解消するに至る可能性は少ないものとみられる。

こうした立場から中国は,米ソ間及び欧州のデタントに対して強い批判の目を向けている。

キ 国連は,当初米ソをはじめ第2次大戦の戦勝国を中心として国際の平和秩序を建設するために構想されたものである。しかし東西対立もあり,国連憲章の規定する平和維持の制度は十分機能し難くなった。たしかにサイプラス紛争や中東戦争等について,国連が平和維持活動の分野において,ある程度貢献してきたことは事実である。しかしながら国連が国際平和維持機構として本来の機能を発揮するためには,大国間の話合いを中心に参加各国の理性的,協力的な行動が必要であるが,その実現は未だ遠い将来のことに属しよう。

ク このようにみてくると,現状は東西の勢力が相互不信を内に秘めつつ軍事力を増強し,必要な範囲で政治的な妥協をしようとしているのが実態である。そして,デタントあるいは緊張緩和といわれるものは,基本的には東西の共存と抗争を内包するものであるといえよう。

米ソ間の戦略兵器制限交渉(SALT)は,1972年の合意に引き続き,新たな協定の締結を目指し話合いが行われているが,米ソ間の質的な核軍備競争に歯止めをかけるには至っておらず,中欧相互均衡兵力削減交渉(MBFR)も未だ意味のある進展はみせていない。核戦争回避のための話合いが行われ協定も締結されたが,通常兵器をもコントロールする軍備管理は今のところ呼び声以上の範囲を出ていない。また,ソ連の軍事力の増強や最近の対外姿勢等から東西関係はかえって新たな厳しさを加えている。

世界のすう勢は緊張の緩和を欲しながらも,大国間の対立抗争は解消しそうになく,世界各地域における軍事的紛争や軍事的緊張の火種は絶えそうにない。したがって,国際社会の現実は今後も一張一弛を繰返していくであろう。

しかしながら,当面の国際情勢において共存と抗争の併存は不可避であるとしても,今後国際関係をより安定したものとするためには,軍備管理の分野における進展を図るなど共存関係を深め抗争を減少させる国際的努力を払うことが必要であろう。

(2) 集団安全保障体制の役割

ア 米ソは,互いに相手の世界政策に懸念をもち,核戦力と通常戦力の強化に努め,特に,ソ連の60年代後半以降における核戦力及び海軍力の増強には著しいものがあった。このような中で西側諸国は共同して戦争を抑止するため,それぞれ立場,立場に応じて貢献し,集団安全保障体制を通じて防衛努力を行って来た。この結果,米ソ間はもちろん,東西の体制間においても直接武力衝突の発生が抑止されて来た(資料1)。

一方,このような核を含む相互抑止を基礎とした集団安全保障体制間の外にある世界の各地域においては,第2次大戦後も数多くの軍事紛争が発生して来た(資料2)。

イ しかし,開発途上諸国の重要性が次第に増大し,また世界の相互依存関係が深まるにつれ,米,ソ,中という大国は,開発途上諸国へのかかわり合いと協調を必要とするようになった。さらに米国が各国に対する公約を選択する方向にあることや,体制内各国の自主性を求める動きなどは,地域によっては,体制の環を緩くし,その性格を変える傾向を生んでいる。

ウ 近年米国は,その参加する既存の集団安全保障体制に表向きは変更を加えないものの,実質上そのコミットメントの重点を欧州と北東アジアに絞りつつある。また増大するソ連の軍事力に対しては,十分性のある核戦力を保持しつつ,通常戦力については,重要地域の与国の協力に依存する度合いを増して来ている。米国の立場からすれば総合戦力構想(Total Force Concept)ということになるのであろうけれども,与国の立場からすれば,それぞれ自主的な防衛努力を続けながら,米国との安全保障体制を背景にもつことによって,地域の安定を図ろうとするものである。

エ 集団安全保障体制は,当初は極めて軍事的色彩が強いものであったが,東西対立の緩和と経済問題の広域化,相互依存関係の深化といった要因によって,今日では軍事的分野のみならず政治的,経済的関係を含め,締約諸国間の幅広い相互協力関係の基礎をなすものとなっている。

また,このような国際環境の変化を背景として東西の集団安全保障体制間では,欧州安保協力会議及び中欧相互均衡兵力削減交渉に見られるように政治,軍事等の問題をめぐり対話が開始されるに至っている。

しかしながら,なお各種利害の衝突や対立が存続し,また国連による平和維持機能が十分に働いていない今日の国際社会においては,地域的取極による集団安全保障体制は依然として適切な選択であるといえよう。

(3) 軍事力の今日的意義

ア 第2次大戦以後の核時代においては,核兵器の相互使用は共倒れに終る可能性があることから,核戦争は強く抑止され,また通常戦争についても,それが核戦争にエスカレートする危険性があるために米ソ間はもちろん,米ソが深くかかわり合っている双方の集団安全保障体制間でもこれを避けざるを得なくなっている。

このようにして,主要国間には,今日一応の安定が維持されているのであるが,このためには,米ソが非脆弱な核戦力を保持すると同時に,各国が信頼性のある通常兵器による軍事力を整備しなければならない。この場合,核が容易に使用されないよう主要国は通常兵器による軍事力を強化しなければならないという要素を含んでいる。

平和の維持のために軍事力を強化するということは,一見矛盾のようであるが,この場合の軍事力はむしろ戦争抑止のための力の保持であり,ここに核時代の特徴がある。

イ 核戦争と通常戦争とを問わず,どのような態様の戦争をも回避するためには,世界の中で鎖の弱いつなぎ目を作らず,いずれの国であっても軍事力で挑戦できないような連結した国際的な体制を作って行くことが重要である。この意味において,適切な防衛体制を整備することは,広範な外交努力とともに平和戦略の一環をなすものといえよう。この防衛体制は,一つには,共通の意思と責任とを持った集団安全保障体制であり,二つには,これを構成する個々の国が自らの国を自ら守る意思と能力とを持つことを意味するのであり,このような体制の長期的な維持整備が,地域の安定と平和の持続の前提となるものであろう。

ウ 核時代の今日程,大国の軍事力と中小国のそれとに大きな差があったことはないが,実際に行使できる軍事力については,また今日程その差が少ないこともなかったといわれる。それは,主要国が核戦争やそれにつながる恐れのある大規模な戦争を避けようとしており,また戦争が行われる場合でも,目的,手段,地域,期間を限定して行おうとする意図が働いているからである。朝鮮戦争やベトナム戦争の場合でも戦争の仕方には限定された点を数多くもっていた。そして大国の軍事力の実際の行使の態様が,保有している軍事力よりも小さなまた限定されたものとなるすう勢にあるというところに,今日,中小国の非核の軍事力でも防衛に有用であるという根拠が与えられている。

エ また軍事力は抑止力及び防衛力としての役割だけでなく,さらに国際政治上の意味合いも持っている。特に大国の軍事力,中でも世界的に展開された海軍力は,政治的影響力を周辺諸国に及ぼす効果をもつものである。また欧州やアジア地域においては,大国の軍事力の存在のほかに,中小国がしかるべき軍事力をもっていわば力の空白地帯を作らないことが,その地域の安定的均衡の維持,したがって国際の平和に役立っているとみるべきであろう。

 

(注) 通常戦争 明確な定義はないが,一般に,核兵器の全く用いられない戦争即ち通常兵器のみを用いて行なわれる戦争(在来型の戦争)を指す。なお,ゲリラ戦については,これを非在来型戦として概念上区別されることもある。

(注) 戦略兵器制限交渉(SALT)(SALT:Strategic Arms Limitation Talks)

米ソ間の核戦争発生の危険を減少させ核戦力増強競争を抑えるために戦略兵器を制限しようとする交渉であり,両国間の安全保障及び関係改善のための諸交渉の主要な柱となっている。

その内容は,両国の保有する核戦力の主体をなす戦略攻撃兵器,即ち,ICBM(大陸間弾道ミサイル),SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル),及び長距離爆撃機等とABM(弾道ミサイル要撃用ミサイル)等とを規制し,その後削減しようとするものである。

1969年11月,予備文渉が開かれ,70年4月本交渉が開姶された。72年5月には,ABM制限条約及び戦略攻撃兵器の制限に関する暫定協定及び同議定書(以上SALT)が結ばれた。

72年11月から第2次交渉(SALT)に入り,爆撃機を加えた暫定協定より広範囲の戦略攻撃兵器を対象とする協定の締結をめざして交渉が続けられている。74年11月ウラジウォストクにおける首脳会談で,おのおのが保有できる戦略攻撃兵器(ICBM,SLBM及び長距離爆撃機)の総数を2,400とすること及びMIRV(独立して別々の目標に到達する複数の弾頭をもった戦略核ミサイル)を装着するミサイル(ICBM及びSLBM)の総数を1,320とすることが合意されたものの,爆撃機,巡航ミサイル(弾道ミサイルと異った飛び方をする有翼のミサイル)の取扱い等をめぐって意見が対立し,未だ協定締結に至っていない。

(注) 中欧相互均衝兵力削減交渉(MBFR)(MBFR:Mutual and Balanced force Reductions)

中欧における関係国の兵力・軍備を東西双方が均衡的に削減し,より低い兵力レベルで安全保障を維持することを目的とし,NATO側が1968年CSCEとからめて提案し,ソ連が本交渉に応じたものである。参加国は,NATO側,ワルシャワ条約側計19か国(内8か国はオブザーバー)で,1973年1月から6月の予備交渉後,本会議は1973年10月からウイーンで開催中である。

(注) 通常兵器 明確な定義はないが,一般に,核兵器以外の在来の兵器を指す。

(注) 軍備管理 軍備の質,量及び軍事支出を制限する公式又は非公式の国際的措置のすべてを意味する。軍縮は,軍備管理の一形態である。なお,広義の軍備管理は上記のような制限措置をもたらし得る平和的な国際環境を生み出す手段を含む。

(注) 総合戦力構想(Total Force Concept) 72年度の米国防報告においてレアード国防長官が提示した構想である。総合戦力とは,米国の現役と予備役部隊並びに同盟諸国の現役と予備役部隊及びそれに付加される軍事諸能力を総称するこものであり,本構想はこの総合戦力をもって自由世界の安全保障上の共通利益を追求することを目的としている。

(注) 非脆弱な核戦力 相手方から攻撃を受けても生き残り,反撃を行うことのできる核戦力である。このため,爆撃機の空中待機態勢をとったり,ミサイルを堅固な地下壕に入れ,あるいは潜水艦にとう載する方法がとられている。

2 わが国周辺の情勢

(1) 政冶的安定と軍事的均衡

ア アジアの多くの国は,経済,社会,治安,民族,宗教等にかかわる各種の国内問題を抱えており,アジアの情勢はその多様性と相まって,不安定な要因を多分に持っている。また近年これらの国に対する中国,ソ連の働きかけも増大しており,両国の角逐は,この地域で最も顕著に行われているようにみえる。米国がこの地域に関心を払い,それを目に見える形で存在させていることは,進展しつつある中ソのせり合いに対するカウンター・バランスとしての役割を果しているものといえよう。

イ 米国のフォード大統領は,1975年12月,新太平洋ドクトリンの形で対アジア政策を表明した。これは従来の政策の集大成であったとしても,ベトナム後の時期に述べられ,今後とも維持されていく基本的政策とみられるところにその意義がある。この中で言及されているように,米国の軍事力の存在は,アジア太平洋地域における安定した軍事的均衡の基礎であり,今なお多くの潜在的不安定要因をかかえたこの地域の安定を維持することに大きく寄与するであろう。

ウ アジア各国の安定を確保するためには,多くの場合,治安,社会,民族,宗教などといった国内的な問題を解決することが重要であり,各国民の努力に併せて,これら諸国の民生向上のため先進各国の適切な経済協力が要請されよう。

わが国は,従来から地域内各国に対し各種援助や協力を行ってきた。しかしながら将来にわたって,アジアの安定と繁栄のために,わが国は何をなすべきであり,また何をなすことができるかについて,さらに積極的に追求していく必要があろう。

(2) 北東アジア

 北東アジアは,わが国の平和と安全にとり最も重要な地域であり,同時に米中ソ3国の利害が交錯している地域であることから,この地域の平和と安定は最も望まれているところである。また,この地域は,多数の2国間集団安全保障取極が効果的に機能している地域の一つでもある(第1図)。

 朝鮮半島は依然南北に分裂しており,その間の相互不信感は根強く,南北対話も停滞したままの状態にあり,双方がそれぞれ大きな軍事力を展開しているので,世界のうちでも著しい軍事的緊張の存在する地域となっている。しかしながら当面の国際情勢や米国の韓国防衛の公約と米軍の配備等からいって,大きな軍事紛争に発展する見込みは,今のところまずないものとみられる。朝鮮半島における平和の維持は日本を含む東アジアにおける平和と安全にとり必要であるが,この朝鮮半島の安定は,在韓米軍を含む軍事的均衡に大きく支えられていることは否定できない。しかしながらこの地域の長期的な安定のためには,単に,軍事的均衡の維持にとどまらず政治的条件の成熟が必要であり,これについて関係各国の積極的な努力が望まれるところである。

 台湾問題については,米中間の話合いの課題として残されているが,この地域から大きな軍事紛争が生れるとは考えにくい。

 日本は,地政学的にも,戦略的にも極めて重要な位置にあり,加えて大きな経済力と人口とを擁しており,それに伴って国際政治にも大きな発言力をもちつつある。わが国が国内的に安定し,対外的にも各種援助協力を行いながら,平和外交を推進し他国に脅威を与えないしかるべき防衛力をもち,かつ信頼性のある日米安全保障体制を維持していることは,わが国の安全と発展はもちろんこの地域全体の安定と発展に大きく寄与しているところである。

(3) わが国周辺の軍事態勢

 北東アジアの情勢を軍事態勢の面から眺めると,わが国周辺の軍事的環境は複雑で他の地域に見られない特色をもったものといえよう。

 ソ連は,この地域に,各種の能力を有する大きな兵力を展開しており,近年装備の近代化と相まって,その戦力は質,量ともに相当に増強されているようである。特に,その太平洋艦隊は,主力艦隊のーつとして著しく拡充され,外洋艦隊としての能力を高めている。

 中国は,世界最大の兵員数を擁する陸軍を中心とし,若干の核戦力を含む大きな軍事力を保持して,その近代化に努めている。

 米国は,これまで同地域所在の兵力を漸次整理縮小してきたが,朝鮮半島と沖縄にそれぞれ歩兵,海兵各1個師団を配置するとともに,第7艦隊及び第5空軍による能力の高い機動打撃力を維持している。

 米ソ両国は,この地域において,欧州に次いで両国兵力の直接向かい合う正面を形成し,また中ソ両国は,1960年代末ごろから国境地帯の兵力を大幅に増強し,現在も大軍を対峙させたまま軍事的緊張を続けている。

 また,朝鮮半島においては,非武装地帯をはさんで韓国と北朝鮮の対立が続き,双方合わせて100万を超える正規軍が各々厳しい警戒態勢をとって対峙している。

 このように,わが国周辺の軍事態勢は,欧州の場合と比較すると,対峙,競合が交錯し,必ずしも安定した状態にあるとはいえないが,米中ソ3国は,当面大規模な紛争発生の抑制に努めているものと見られる。

 以上のような軍事態勢について,これを各国別の軍事力として具体的に見ると以下のとおりである。(第1表 1970年以降の中ソ国境地帯における両国陸軍の配備状況

(4) わが国周辺の軍事力

 (第2図,資料3)

ア ソ連(極東ソ連)

イルクーツク州以東の極東ソ連の面積は,ソ連全土の約35%を占め,わが国のほぼ20倍に相当する。

ソ連軍は,16個軍管区,4個艦隊のうち,この地域に極東,ザバイカルの両軍管区と太平洋艦隊を,また,航空兵力については,全ソ連の約4分の1の勢力を配置しており,モンゴルにも極東ソ連軍の一部が駐留している。

極東ソ連の地上軍は,直接中国と,また海をへだててわが国及び米国に面している第一線部隊である。一方太平洋艦隊は,大平洋全域を行動範囲としているほか,インド洋もその責任海域としている模様で,その勢力は米国本土を攻撃できる弾道ミサイルとう載潜水艦や強力な海上阻止能力を有する攻撃型潜水艦,水上艦艇などから構成され,その増強ぶりには,米国もアジア・太平洋地域における強大な軍事力として,大きな関心を示すところとなっている(第3図)。

(ア) 地上軍

地上兵力は全ソ連166個師団のうち,約4分の1に当たる40個師団以上が中ソ国境沿いの四つの軍管区とモンゴルに配置されているが,これは1969年の中ソ国境紛争を契機として大幅に増強されたものである。極東ソ連軍としては30個師団以上が配置されているが,その多くは,中ソ国境近くに置かれている(第3図)。

装備の面においては,T−62型中戦車,BMP−76装甲歩兵戦闘車,地対地ミサイルFROG−7などソ連の第一級兵器により質的な強化が図られており,欧州正面に次ぐ高い軍事態勢が維持されている。

これらの部隊は,地域別にみると,中ソ国境に近いものは,国境防衛,攻撃,防御,増援等あらゆる形態の戦闘に応じ得る演習を,サハリン,カムチャツカ等離島僻地に所在するものは,上陸あるいは上陸阻止の演習や大陸部との相互の部隊増援演習を,また,主要都市に所在するものは,地上部隊としての訓練・演習とならんで,対核防護訓練等を実施するなど,それぞれ所在する地域の特性に応じた各種の作戦を遂行し得るよう,訓練・演習を行っているものとみられる。

(イ) 戦略ロケット軍

戦略ロケット軍は,ソ連の5軍種(戦略ロケット軍,地上軍,国土防空軍,空軍,海軍)のうち,最も新しくかつ重視されている軍であるが,極東ソ連においても,射程距離を変えることのできるICBMを含む戦略ミサイルがシベリア鉄道沿いの内陸部に配備されている模様である。

(ウ) 海軍

ソ連太平洋艦隊は,ソ連海軍の2,500隻,420万トンを超える全艦艇のうち,約750隻,約120万トンを保有し,司令部所在地であるウラジウォストクのほか,ペトロパウロフスク,ソビエツカヤ・ガワニなどを主要な基地としている。

極東ソ連海軍は,近年その増強ぶりが注目され,強大な潜水艦群は,弾道ミサイルとう載艦を含む原子力潜水艦約40隻をはじめとして,総数120隻以上に達している。また水上艦艇についても,クレスタ級ミサイルとう載巡洋艦,クリバック級ミサイルとう載駆逐艦などのミサイルをとう載した大型新鋭艦によって逐年質的強化が図られており,さらに遠洋における海上活動を支援する各種の補助艇艦の保有と相まって,外洋艦隊としての実力を充実しつつある(第3図)。

極東ソ連海軍は,近年行動も活発さを増している。主要なものとしては,まず1970年4月に初めて全世界的規模で実施され世界の注目を浴びた「オケアン(Okean)」演習があるが,この演習には太平洋艦隊からも巡洋艦など約30隻,航空機多数が参加して,グァム島近海にまで行動した。その後,71年夏,73年夏にも太平洋広域に進出して外洋演習を実施している(第4図)。

また,75年4月には,人工衛星の使用によるモスクワからの統一指揮の下に,全世界の海域において艦艇約220隻,航空機約400機が参加したといわれるオケアン75演習が行われたが,これは各国海軍が平和時に実施した演習のうちでは,史上最大規模のものであったとみられている。この演習で太平洋艦隊は,艦艇約50隻,航空機多数をわが国周辺海域においても展開して,船団攻撃,対空母攻撃,対潜水艦戦,水陸両用戦など多岐にわたる訓練を同時に行った(第5図)。

75年夏にも,日本海,東シナ海などで,太平洋艦隊のミサイル駆逐艦や情報収集艦が参加して演習が行われている。なお,情報収集艦は,わが国周辺においても,宗谷・津軽・対馬の3海峡や沖縄附近において随時活動しており,監視や情報収集などに従事しているものとみられている(第6図)。また,わが国沿岸で活動する科学調査船や漁船団の漁業調査船は,事実上情報収集艦と同じような機能を果しているものとみられる。

これら一連の行動は,ソ連海軍が外洋艦隊としての実力を練成すると同時に,ソ連海上勢力の全世界にわたる誇示を意図しているものとみることができる。

(エ) 航空部隊

ソ連航空部隊は,遠距離航空部隊,前線航空部隊,防空航空部隊,海軍航空部隊及び輸送航空部隊に区分されるが,近年Mig−23,Mig−25,Su−19各戦闘機,Tu−26爆撃機などの新機種を次々と配備し,戦闘任務を遂行する作戦機の総数は,8,000機以上に達している。

極東ソ連にも,これらの各航空部隊が配置され,Tu−16爆撃機,Mig−21戦闘機などを主力として,約2,000機の作戦機を擁し(第3図),新機種への更新や航空機にとう載される電子装置,ミサイルその他の装備の改善によって,質的強化が図られている。沿海地方南部,南樺太などわが国周辺に所在する多数の航空基地にも,その一部が配置されている。

航空兵力の強化と並んで,航空機の活動も活発であり,ソ連機のわが国への接近飛行は,毎年約200回を数え,これらに対する航空自衛隊の緊急発進は,300回以上に及んでいる。このソ連機による接近飛行には,わが国に対する情報収集,監視等の行動が含まれているものとみられる(第7図)。

イ 中国

中国は,従来から軍事力の整備に努めてきたが,特に最近の装備の更新,近代化に対する努力には著しいものがみられる。

中国の当面の最大の対象はソ連であることから,対ソ戦備の強化が図られ,装備近代化の主な狙いも対ソ戦力の増強にあるものとみられる(第3図)。

核装備の開発は,1964年10月の第1回実験以来続けられているが,MRBM(射程約1,100km),IRBM(射程約2,800km)については,すでに実戦配備が行われているものの,ICBMは,いまだ実戦配備の段階に達していないものとみられる。

(ア) 陸軍

中国軍事力の大きな特色は,正規軍(人民解放軍)の総兵力約325万人のうち,陸軍がその90%近くを占め(ソ連50%程度,米国40%程度)約280万人という世界最大の兵員数を擁し,さらにその大部分が歩兵師団(125個師団)から成っていることである(第2表)。また,その装備は,ほとんどがソ連型式のものであり,他の先進各国の陸軍と比べて,なお近代化の余地が多分に残されているが,最近は,特に戦車戦力の増強と対戦車戦闘力の向上に力を注いでいるものとみられる。

なお,正規軍のほかに民兵と通称される膨大な準軍隊組織を有し,なかでも,基幹民兵は,数100万人にのぼる人員を速やかに戦闘に参加させることができるといわれる。また,ソ連軍と同様に,1969年の中ソ国境紛争以来,国境地帯の兵力が大幅に増強され,現在,約80個師団が藩陽,北京,蘭州,新彊の各軍区に展開され,対ソ警戒の態勢をとっている(第1表)。

(イ) 海軍

中国海軍は,従来沿岸防備的性格と能力しか保有していないとみられていたが,近年,潜水艦,ミサイル駆逐艦,高速哨戒艇などの建造能力を高めて着実に近代化されつつあり,これまでの限られた沿岸防備的性格から脱しようとの志向も窺われる。

(ウ) 航空部隊

空軍と海軍航空部隊は,Mig−17/19戦闘機を中心に,F−9戦闘機(中国の設計による)やIL−28軽爆撃機など合計約4,400機の作戦機を保有し,数的にはソ連,米国に次ぐものの,主力はソ連の設計によるやや旧い型式のものである。これを改善するため,西側からの技術導入を図り,新鋭機の国産能力の向上に努力しているとみられる。中国の航空部隊は,作戦機の大部分が戦闘機(3,000機以上)であり,防空を主体とするものであるが,対地支援能力の向上についても,努力を払っている模様である。

ウ 米国

米国のアジアにおける兵力配備構想について,米国の国防報告(1977年度)は,「中欧と北東アジアに強力な兵力配備を維持することに重点を置くとともに,同盟国との協力の下に,これらいずれかの地域に対する大規模な攻撃に備える前方防衛線を保持し得ることに重点を置く」と述べ,「欧州と北東アジアの二つの重大な地域が米国の安全保障にとって根源的な重要性を持っている」との方針を示している。

また,米統合参謀本部議長の軍事態勢報告(1977年度)は,「条約上のコミットメントを履行するため,米国は限られてはいるが,強力な兵力を東アジア及び西太平洋に展開している」と述べ,これらの兵力の重要な任務として,「海・空交通路を確保し,友好・同盟国に対し,核抑止力を与え,条約上のコミットメントを維持し,安全保障上の援助と,必要とあれば,米軍の展開を通じて,友好・同盟国が自衛を達成し,維持するのを助けることである」と説明している。

このような構想に基づくわが国及び周辺地域における米軍の態勢は,次のようになっている(第8図)。

(ア) 地上部隊

ハワイ以西に展開されている地上戦闘部隊としては,韓国に歩兵師団,ミサイル・コマンド及び防空砲兵旅団各1個が,沖縄に1個海兵師団(歩兵2個連隊,砲兵1個連隊など)が配置されている。

(イ) 海軍

航空母艦2隻を基幹とする第7艦隊(艦艇60隻,60万トン程度)が,横須賀,スビック湾(フィリピン)及びグァムを主要な寄港地として西太平洋からインド洋にまで行動し,空母部隊と両用戦部隊による機動打撃力をもって,即応の態勢をとっている。

第7艦隊は,海兵師団との連係チームである海兵航空団をわが国に駐留させ,2個航空群(F−4戦闘機,A−6,AV−8,A−4各攻撃機など装備)を岩国に,1個航空群(KC−130給油輸送機,攻撃へリコプターなど装備)を沖縄にそれぞれ配置している。

また,日本,フィリピン,グァムなどにP−3対潜哨戒機4個飛行隊を,グァムに電子偵察飛行隊(EP−3,EA−3など装備)を配置している。

(ウ) 空軍

戦術航空部隊としては,横田に司令部を置く第5空軍が韓国に2個航空団(F−4戦闘機3個飛行隊など)を,沖縄に1個航空団(F−4戦闘機4個飛行隊など)をそれぞれ配置している。また,フィリピン駐留の第13空軍も同国に1個航空団(F−4戦闘機2個飛行隊など)を配置している。

戦略空軍としては,爆撃機を中心とする1個航空団(B−52戦略爆撃機,KC−135給油機各1個飛行隊)がグァムに,給油,偵察を主たる任務とする1個航空団(EC/RC−135偵察機,KCー135給油機各1個飛行隊)が沖縄に配置されている。

また,輸送空軍は1個航空団(C−130戦術空輸機3個飛行隊)がフィリピン及び横田に配置されている。

エ 朝鮮半島

わが国と一衣帯水の間にある朝鮮半島では,わが国の本州ほどの面積に,韓国と北朝鮮合わせて100万人を超える正規軍が存在し,これが幅わずか4km,長さ約250kmの非武装地帯をはさんで対峙している。

南北間には,非武装地帯におけるトンネルの発見,武装ゲリラ潜入事件,多発する海上衝突事件などにより緊張が続いており,同半島は,今日,世界で軍事的対立の最も厳しい地域の一つとなっている。

北朝鮮は,「経済建設と国防建設の並進」という方針の下に,「全人民の武装化」,「全国土の要塞化」,「全軍の幹部化」及び「全軍の近代化」を掲げて,工業力を背景に,兵器の国産化を推進するなど,軍事力の整備に努めている。

現在,総兵力46万7,000人のほか,準軍隊としての保安隊,国境警備隊,労農赤衛隊を保有し,動員体制は全人口の約14%に及ぶとみられている。

一方,韓国は,1960年代を通じて,米韓協力体制の強化による対北朝鮮優位の確保を基本としてきたが,70年代に入ってからは,在韓米軍の一部削減とも関連して,自主国防体制の確立を強調し,特にインドシナ情勢急変後においては,防衛税を新設するなど最大の努力を払っている。

現在,総兵力62万5,000人を維持しているほか,膨大な郷土防衛予備軍を擁し,動員体制は全人口の約11%に及ぶとみられている。

南北の軍事力を軍種別に見れば,概略次のとおりである。(第3表

(ア) 陸軍

北朝鮮陸軍は,その主力とする歩兵師団のほか,戦車師団や自動車化師団を保有し,24個の全師団が有事即応の態勢にあるといわれる。これらの部隊の重装備は,T−54/55戦車など主としてソ連供与のものであるが,現在国産化を進めている。また,北朝鮮陸軍は,強力な準軍隊を持ち,短時間に正規軍に編成可能であるといわれる。韓国陸軍は,その師団のすべてが歩兵師団で戦車師団や自動車化師団はないが,機甲旅団や多数の砲兵大隊を保有しており,兵員数においては,北朝鮮を上回っている。部隊装備は,米軍供与のもので,補給等の後方支援も,米国に依存する面が多い。韓国は,首都ソウルが軍事境界線からわずか40〜50km程度の近距離に位置しているために,北朝鮮側の地対地ミサイル(FROG−5/7)の射程内にあるなど,地上作戦遂行上の大きな弱点となっていることは否めない。

在韓米軍は,1個歩兵師団(約2万人)を基幹とする部隊をソウル以北の前線に配置し,さらに戦術核兵器の配備を公表しているが,これらが現実に大きな抑止力となっているものとみられる。

(イ) 海軍

北朝鮮海軍は,韓国海軍に比して保有隻数が多い割にはトン数が少ない。潜水艦8隻があるが,駆逐艦級以上の大型水上艦艇は保有しておらず,小回りのきく高速ミサイル哨戒艇(18隻)を含む多数の高速艇が主力となっている。また,行動水域が東海(日本海)と西海に完全に分断されていることは,作戦上の支障となるものとみられる。

韓国海軍には,潜水艦はないが,主要艦艇として,駆逐艦,護衛艦などを保有している。主要艦艇は米軍供与のものであり,旧式化しているが,最近新たにミサイルとう載艇を配備している。また,韓国海軍には,精強をもって知られる海兵隊1個師団(約2万人)がある。

(ウ) 空軍

北朝鮮空軍の作戦機は,その大部分はソ連製で,装備機数(約590機)は,韓国の3倍に近く,IL−28軽爆撃機も保有している。主力戦闘機として,Mig−21を装備し,ある程度の全天候作戦能力を備えているとみられる。

韓国空軍の作戦機は,米国製で,北朝鮮に比し,装備機数(約220機)は著しく少ないが,全天候作戦能力のあるF−4C/D戦闘爆撃機を装備しており,乗員の練度も高いといわれている。なお,韓国空軍の数的な劣勢は,在韓米空軍(F−4D/E戦闘爆撃機60機など)と極東に所在する米航空兵力がこれを補っているとみられる。

以上の態勢から,南北の軍事力は,4万2,000人の在韓米軍を含めて,概ね均衡しているとみなすことができる。

 

(注) 新太平洋ドクトリン 1975年12月,フォード米大統領が,ハワイにおいて,明らかにした米国の今後のアジア・太平洋地域に対する総合的な外交の基本方針である。その内容は,次の六つの項目からなり,アジアにおける米国のプレゼンス維持という米国政府の基本政策を内外にあらためて表明したものである。

 米国の力が,太平洋における安定した勢力均衡の基礎であり,アジアにおける友好国,同盟諸国の主権と独立を保持することは,米国の政策の最高目標の一つである。

 日本との協力関係が米国の戦略の柱である。

 中国との関係を正常化する。

 米国は東南アジアの安定と安全保障に引き続き利害関係をもつ。ASEAN各国は,それぞれ国家的抵抗力及び外交によって自国の独立を守っており,米国は引き続きこれら諸国を支援しなければならない。

 アジアの平和は未解決の政治的紛争の解決にかかっている。

 アジアの平和には,域内のすべての国民の願望を反映した経済協力の構造が必要である。

(注) 全天候作戦能力 昼夜間の別なく雲中又は雨中においても作戦行動が可能な能力